本記事から遂にというのか、やっとというのか、サイトの本筋であるBLCDのレビューに入っていきます。記念すべき最初のレビューですから、どの作品にするか迷いました。このBLCDに決めたのは、完成度が高いことはもちろんなのですが、筆者がはじめて濡れ場で泣いた作品だからです。濡れ場で泣くって…正気ですか?とツッコミたくなりますが、大丈夫、やる気!元気!正気!筆者も他の方のレビューを読んで、濡れ場で泣くって、おいおい勘弁してくれよワイフ、とか思ってました。しかし、実際に濡れ場で号泣。嘘ではなかったのです。
本作品は間違いなく物語として高いストーリー性と萌えとエロと、全てが非の打ち所のない名作。濡れ場で泣かせるほど強い引力をもった作品を、一番最初に書きたいと思いました。
作品名:しなやかな熱情
原 作:崎谷はるひ著
レーベル:Atis collection
メインキャスト:秀島慈英(CV.三木眞一郎)× 小山臣(CV.神谷浩史)
設 定:画家 × 刑事
ジャンル:サスペンス/ロマンス
エロ度:★★★★☆
ラブシーン回数:4回
ラブシーン分数:25分06秒(1回目,5:05/2回目,3:30/3回目,3:35/4回目,12:56)
あらすじ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
天才とよばれる画家の秀島慈英は、エージェントと衝突したことで個展の話が立ち消えになったうえ、業界から追放されかけていた。傷心しきった心身を癒すために訪れた長野の地で、彼は殺人事件の重要参考人なってしまう。そこで事件の担当刑事である小山臣と出会う。美麗な容姿に似つかわしくない横暴な態度だけれど、快活で屈託のない彼に惹かれていく。しかし彼は身体だけの関係を求めてきて…?
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未だに重版のかかるモンスターシリーズ
本シリーズは、一作目である「しなやかな熱情」発売から12年もの時間が経過しているにも関わらず、未だに重版のかかるモンスターシリーズです。そもそもCDそのものが売れない現代ですから、CD媒体でしか入手することができず、しかもこのシリーズは作品の8割が2枚組で5,000円以上もするという、ユーザーにとって分厚い障壁が立ちはだかります。それを越えてくるというのは、それだけ熱狂的なファンが多いことを示しています。
ではなぜ本シリーズは、BLCDというニッチなジャンルにも関わらず、ロングヒットを続けているのでしょうか。ストーリー、キャスト、演出、どこに魅力があるのか探っていきましょう。
ロングヒットの秘密を探る
その1:三木眞一郎の天才的な芝居
声優に詳しい方なら三木眞一郎さん(以下、三木さん)がどれだけゴイゴイスーな人か、説明するのは愚問ですよね。今回三木さんが演じられたのは、気鋭の天才画家、秀島慈英。感情の起伏が少なく、その圧倒的な才能から嫉妬されることも多い。いわゆる世間一般の感覚とはずれたところがあり、興味のない人や事柄には残酷ともいえるほど冷たい一面をもっているという難しい役所。三木さんはそんな、一見穏やかに見える慈英が内側に抱える屈折した感情や、臣に出会ったことでこれまで知ることのなかった感情に動かされる、らしくない慈英を見事に演じられています。
専門家ではないので素人目の話になってしまいますが、特に原作が小説の作品に多いナレーション・モノローグの部分は単調になりがちというか、あまり長かったり多かったりすると聞いていて退屈な部分があったりします。本作のなかでも慈英のナレーション・モノローグはかなり多いのですが、三木さんがもう大御所の大技で大演技をされているので、最初から最後まで失速することなく聞くことができます。もうね、技ワザwhat's thatの連続。これは必聴です。
ここで勝手に本作のなかの、ドキューンズキューン胸打った慈英のセリフをご紹介!
「簡単なことばっかりしてたら、ほしいものは手に入らないよ。臣さん」
その2:神谷浩史の黄金期を聞け
神谷浩史さん(以下、神谷さん)についても説明が不要ですね。イケボにグッドクッキングガイに演技力と、おそらく間違いなく3足以上のわらじを履いているであろうアジアNo.1声優でございます。残念ながら彼はBLCD卒業生なので、現在は新規のBLCDに出演されていません。卒業されると、シリーズものの続編のみに出演することになりますが、本作は唯一続編の望めるシリーズであり、神谷さんのBLを聞くことができる最後の砦なのです。
本作では端麗な容姿とは反対の粗暴な性格、セックス大好きこじらせ刑事役です。なんといっても本作での聞きどころは、神谷さんのツンデレと寝技だ!ツンデレあるところに神谷浩史あり!っていうじゃないですか(個人の見解です)。もうね、いちいち慈英のいうことに反応しちゃったりね、しょうがないよね、慈英さんイケメンだし、なんてったって天才ですから。ゲイ界隈では需要の少ない美人ジ●ニ系ネコの臣さんは飢えているわけですよ(個人の見解です)。濡れ場ではBL黄金期の神谷節がゴイゴイスー。スーを3億個差し上げます状態です(個人の見解です)。刑事のときの快活で屈託のない臣とは正反対も正反対。妖艶な夜の揚羽蝶です。
ここで勝手に本作のなかの、ドキューンズキューン胸打った臣のセリフをご紹介!
「おまえの、おいしいの、たべていい?」
なにを食べたかは本編をお聞きください。
その3:BLなのにDISK1枚目丸々、一切の触れ合い無し
BLといえば、玄関あけたら2分で致す、がお決まりですよね(偏見です)。そうでなくとも割合、貞操ハードル3センチくらいが平均だと思うんです?もちろん全年齢向けの素晴らしいBLCDもありますが、このサイトではあえてBLCDの最大の魅力は濡れ場であると宣言しています。その立場からいわせていただくと、2枚組のCDの1枚目丸々、どこの誰ともなんの触れ合いもないというのはかなり強気というか、その分ストーリーでみせていかないと絶対にもたない。本編を聞けばそんな心配は無用だとわかります。そう、本シリーズは男と男のちちくり合いだけで終わらない(終わってもいいのよ)、ストーリーでもみせてくれる作品なのです。とりわけ本作はサスペンス要素を含んだ作品で、事件を追いながら二人の距離が徐々に縮まってく展開。DISK1丸々使って事件の捜査や慈英の過去、そして臣との関わり合いのなかで惹かれていく二人をじっくり描写していきます。このじっくりと二人の関係を追いかけるという作業をすることで、キャラクターに感情移入しやすくなり、より作品の世界観に入り込むことができるのです。そして2作目、3作目と一筋縄ではいかない二人を聞いていくうちに、私たちは長野の風となって彼らの日常と非日常を追いかけ、濡れ場で号泣するという高みに行き着くのです。
その4:予定になかったCDを作らせた”じえおみ”クラスタ
本シリーズの2作目が「ひめやかな殉情」、3作目が「あざやかな恋情」となるわけですが、なんと4作目にして予定になかったCDを発表します。それが「さらさら。」です。4作目の「さらさら。」は1作目と2作目の間のストーリー。この4作目は二人の馴れ初めが書かれたストーリーなのです。2作目は1作目から4年後の二人の話であり、すでにお付き合いしています。1作目は引っ越してきた慈英の家に臣が訪ねてくるところで終わっているので、どうやって付き合ったのか、その馴れ初めが描かれないまま2作目では一気に4年後までとんでいるということです。そこで立ち上がった”じえおみ”クラスタ。このまま二人の馴れ初めを無視して話を進めようったってそうは問屋がおろさねぇぜ!とばかりにリクエストという名の猛撃を開始。ついには制作会社を動かし、「さらさら。」のCD化に至った、というわけです。いやーこれすごいことですよね?CD化といっても本来発売する予定がなかったわけですから、荒い言い方をすれば、制作サイド的には必要ないと判断した話だったと考えられます。BLCDのファンがそれを覆して制作会社を動かしたってこれ、事件レベルですよ。ものすごい数だったんでしょうね。そして戦慄を覚えるほどの熱意でリクエストがあったのでしょうね。
制作会社をも動かす”じえおみ”クラスタの脅威、もとい熱烈な愛情は間違いなくこのシリーズの立役者といえます。
その5:ハイクオリティのAtis collectionさん
BLCDと一口にいっても、多くの制作会社が存在します。代表的なところでは、フロンティアワークス、ムービック、Ginger Records、フィフスアベニューなどがあります。最近ではおっさんずラブなどの影響でBLに注目が集まり、新しくレーベルを立ち上げる動きもあるようです。筆者も何百枚とBLCDを聞いてきましたが、やはりレーベルによってBLCDの雰囲気は全然違うものです。本作のレーベル、Atis collectionさんは筆者のなかで、最もハイクオリティのパフォーマンスをみせるレーベルです。過去の記事でも書きましたが、BLCDの3大クレームの一つに「BGMがダサい」というものがありました。演出はBGMの他にも、シーンの繋ぎだとか、モノローグの入れ方、話の構成、声優さんへの演技指導など、作品の良し悪しを左右する重要な要素になります。声優さんがいくら人気で実力があっても、演出で転けたらおしまいなのです。Atis collectionさんは作品の演出において、他のレーベルより頭一つ飛び抜けています。お気に入りの原作がCD化されて、いざ聞いてみたらとんでもねぇ演出がされていて、憤慨することってあるじゃないですか。Atis collectionさんは安心と信頼のBLCD。本シリーズが長く熱烈に愛されているのも、Atis collectionさんの妥協のない演出があってこそです。
DISK2の逆襲
前項「ロングヒットの秘密を探る」のなかで、DISK1ではBLCDの魅力である肌の触れ合いが一切ないことを書きましたが、じゃぁDISK2はどうなってんだという話ですよね。大丈夫。皆さん大丈夫ですよ。期待以上の仕事をしてくれていますから!実際にお聞きいただければわかると思いますが、DISK1の禁欲がDISK2でドピュッシーを起こしてます(ニュアンスで感じてください)。これをDISK2の逆襲と呼ぼう。そして飛び交う崎谷節満載の淫語大運動会。個人的には慈英が最初、臣のことを刑事さんと呼んでいるんですよ。臣に触られて「ちょっと…刑事さ…」がたまんねぇですね。一方臣さんはもうなんていうか、神谷浩史黄金伝説!って感じっす(ちゃんと書け)。とにかく食べたい。とにかく食べたくて仕方がない臣さん。上も下もマルマルモリモリみんな食べちゃってます(やめろ)。これがまたただエロいだけではない。その濡れた台詞のなかに垣間見える臣の脆さや不安定さがあって、それを本意ではないのに受け止めるしかない慈英だったりがいるわけですよ。慈英は言ってほしいし言いたい。臣は言って傷つきたくない。それでお互い全然本音を言ってないもんだからアンジャッシュのコントみないになっちゃうわけじゃないですか(ならない)。
アンジャッシュは1回忘れていただいて。とくかく本作の濡れ場における神谷浩史は、死ぬまでに聞いておきたい神谷浩史ですよ。必聴です。
本作のあとは必ず「さらさら。」を聞くべし
驚くべきことに、演出上「いい感じ」に終わっている本作ですが、誰も一人も付き合うなんて一言も言ってねぇからな?口が悪くなってすみません。最後のシーンを聞くと、あ、お二人うまくいったのね的な印象を受けがちなのですが、誰一人付き合うとは言ってない。そう、事実この二人は本作ではうまくいってない。このまま「ひめやかな殉情」を聞くと、本作で付き合うことになりました感を植えつけられますが、騙されちゃいけねぇぜ(騙してません)!騙されないためにも、本作のあとは必ず「さらさら。」を聞いてください。今後の二人を語るうえで「さらさら。」は非常に重要なターンです。私たちは「さらさら。」を聞いてやっと、この超大作BLCDのスタート地点に立つことができるのです。
末筆
本作のレビューと言いながら、以降の作品についてもガンガン触れてきました。本作はほんの序章、二人の出会い編です。ここからが本番。本作だけ聞いても、おそらくまだ長野の風にはなれませんし、濡れ場で泣くまでの高みには到達できないでしょう。CDが先でも構いませんので、必ず原作を読んでください。CDでは生きている二人を、原作ではCDで描ききれない描写を堪能して、どっぷり世界観に浸かってください。そうしてはじめて、あなたは長野の風になれます。長野のどこかで生きている彼らに想いを馳せ、二人を吹き抜ける千の風になることでしょう。
次回、慈英×臣カップル成就編!崎谷はるひ原作「さらさら。」です。