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じえおみに近づく黒い影!?崎谷はるひ原作!「ひめやかな殉情」BLCDレビュー

 さぁ、しなやかな熱情シリーズ、早くも三作目に突入でございます。「さらさら。」でやっっっとこじらせカポーのお付き合いがはじまったと思ったらなんと、本作ではすでに同棲してます。お付き合いしてから4年後の二人が描かれており、恋人やーんのーか、やーらへんのーかどーっちやねーん(※めちゃイケM三兄弟風に)♪だったこじらせ時期とは大違い。もうとくかく言葉を尽くしても足りないと言わんばかりのラブラブっぷり。今回もシリーズの特徴としてサスペンス要素が取り入れられており、不気味な男の登場によって臣が奮闘したりと、満腹感のある一作となっております。そして今回は、慈英の”本性”が垣間見える重厚なシーンがありますので、そちらにも注目して聞いていただきたいと思います。さぁみんな!長野の風になる準備はいいかい?

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 作品名:ひめやかな殉情
 原 作:崎谷はるひ著
 レーベル:Atis collection
 メインキャスト:秀島慈英(CV.三木眞一郎)× 小山臣(CV.神谷浩史)
 設 定:画家 × 刑事
 ジャンル:サスペンス/ロマンス
 エロ度:★★★☆☆
 ラブシーン回数:2回
 ラブシーン分数:8分27秒(1回戦,4:47 / 2回戦,3:40)
 あらすじ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 交際をはじめてから4年、画家の慈英と刑事の臣は同居をはじめていた。慈英は仕事
の幅を広げたことで画家としての才能を発揮する。一方の臣は警部補への昇進試験を
勧められるが、恋人と離れて暮らすことへの不安から決断できずにいた。それでも同棲
する恋人同士として順風満帆な日々を過ごしていた彼らの前に、慈英の大学時代の友人
だという三島秀彦が現れる。強引に慈英と交流をもとうとする三島は、そのうち臣にも
近づいてきて・・・。
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 自称オトモダチ、三島現る
 街で声をかけてきたのは慈英の大学時代の友人という三島だった。今回はこの三島という男がサスペンス要素となって、大いに二人を引っ掻き回すことになります。街で声をかけられる慈英と臣ですが、懐かしがる三島にいまいち、というか完全に誰かわからない状態で話だけ合わせている反応の慈英さん。その理由は後半で明らかになります。
 どことなく慈英に似ている三島のことを、男前だと褒めた臣に「ああいうタイプの方が好みとか言いませんよね」と慈英。これがまた怖い!原作では不機嫌という表現なのですが、演じられている三木さんの解釈から表現された演技なのでしょう。ものすごく怖い。臣に対する強い執着心が台詞のなかに滲んでいるのがわかる。嫉妬する慈英に、お前以外になんで目がいくんだと拗ねる臣がまたかわいい。愛されていると自覚した臣さん、ジュンッジュワ〜と来ちゃったのか「帰ってゆっくりしよ?」が誘ってる!この「しよ?」がもう。もう誘っている。こんな2文字だけでこんないやらしい言い方するなんて神谷さん…あんたアタシらをどうするつもりだい?

 堺のじっちゃんの台詞が刺さる
 育ての親にあたる堺さんが昇進試験を受けるよう臣に勧めます。しかし過去のことで自分に自信がもてない臣は、昇進後の転勤で恋人との間に物理的な距離が生じることへ強い不安があった。そんな臣に対して堺のじっちゃんがまた良いこと言うんです。
「相手に負けちゃ人生一緒にやってけないんだよ」
「自信がつけば疑わない、揺らがなくなる」
「長い人生のうちの一年なんか屁みたいなもんだってわかる」
 もうブッサブッサ臣の胸に刺さりまくります。慈英は数百万の価値がある絵を生み出す才能の持ち主で、絵を書きながら料理や掃除などの家事全般までこなしている。一方臣は帰宅してスーツのまま眠ってしまい、家のことは慈英に任せきり。そういう格差のある関係では、誰でもない臣が辛くなってくるだろうと心配した堺のじっちゃん。(あんた仏かよ。)
 やっぱりここまで深く切り込める、というのは小説の醍醐味。晴れて一緒になりました、ジャンジャンではなくて、その先一緒に生きていくということは、生活がある。家事や仕事をどのように両立するか、そのなかで相手と対等な関係で互いに寄りかからない生き方をするにはどうしたらいいか、というところまで書かれている。読者はよりキャラクターをリアルに感じることができるわけです。

 慈英、さらっとプロポーズ
 三島が頻繁に慈英の家に押しかけるせいで、臣は慈英との関係を知られないよう実家に帰ります。またやめておけばいいのに、慈英に行き先を告げないまま実家に帰ったので、半分家出のような状態に。おいおい4年も付き合って同居もしてりゃぁ、そんなことしたら慈英がどれだけ怒るかわかるだろう!これも臣なりに慈英に気を遣った結果なのですが、どうも遣い方間違えちゃってるのよねぇ臣ちゃん。
 当然、強制送還。一時的でも臣が消えた不安が爆発し、玄関で強引に唇を重ねる。一人で反省する時間くらいくれ、といっていたわりに「今日休みだったしべつに疲れてない」なんて物欲しそうに、エッロい言い方するんです神谷さんが。そのあとの明日は何時から仕事だとか一見とりとめのない会話に見せかけて、実は全てエロいことをするかどうかの探り合い!もちろん濃度120%のドエロ臣さんが聞けます。慈英に「この小さいお尻に、俺は今なにをしてる?」と言葉責めを受けて「入ってる…いやらしいことしてる…」って臣さん…あんたが一番いやらしいよ…。濃っ厚なセックスのあと、臣が昇進試験を受けるよう堺から勧められたことを打ち明けると、慈英さんまたちょっと怖いこと言います。
「堺さんのおっしゃることはとても正しいんでしょうね」
「本当は甘やかして甘やかして俺がいないと生きていけない人にしたい」
「こんなもんじゃないんですけどね」
 他のBL作品でもこの手の台詞って山ほどあるんですけど、慈英が言うと訳が違う。実際にする気はないけど、そういう気持ちでいるよというライトさが慈英にはないといいますか、大げさにいうとサイコパスっぽいというか。慈英って冗談とかいえないタイプの人間じゃないですか。先に挙げた台詞のなかに本気で臣を自分に繋いでおきたい、しかも精神的に依存させたいという本音の欲求が滲み出ている…(怖)。それは例えば臣がいつまでたっても意識低い系平刑事のままでも、家事を一切しなくても、極端な話引きこもりになって一切の人間関係を断とうが慈英の側にいて気持ちが向いていれば構わないと言っているように聞こえる。でもその深層にある欲求が歪んでいて、臣の自立や成長を妨げるものだということもわかっている。だから臣を依存させて繋ぐのではなく彼の意思を尊重した公的な手段として「籍でも入れます?」と提案する。(うん。慈英さんそれプロポーズっていうんですよ知ってます?)それに対して臣が「もういいよ。気持ちで十分。それ以上は、本当に…」と涙をこらえながら言葉を切らして返す。これがなんとも切ない。自分なんかと付き合ってくれているだけでも十分満たされている、これ以上の幸せを求めることはとてもできない、そんな臣の台詞が泣かせます。

 三島の異常性、その目的とは?
 昼食を買いに出た臣は三島と出くわすが、三島は明らかに意図をもって寄せているとわかるほど、服装も伸ばした髪も髭も、そしてなにより「臣さん」という呼び方も、慈英そのもの。「光臨の導き」という宗教団体で勉強をしていると平然と言い放つ三島は、宣伝用のポスターに使われている絵に不満があるようだった。異様な三島の目的が、光臨の導きのポスターに慈英の絵を利用しようとしていることを悟る。そこで臣はやめておけばいいものを単独捜査をはじめるんですね。(いやいやこの間あんた怒られたばっかですやん!)照英の紹介で三島のことを知る大学時代の元カノ、梅原衣理亜(以下、衣理亜)と接触。三島が慈英の絵を盗作したことや、レイプまがいに当時慈英と交際していた女性を次々に寝取っていたことや、慈英の過去の人間関係を知らされる。印象的なのは「話しかけたら物が喋ったみたいに驚かれたことなんかないんでしょう?」という台詞。臣がどれだけ慈英にとって”特異な存在”なのか知らしめる台詞であると同時に、過去の慈英が絵以外の生身の人間に対して希薄だったことを想像させる台詞でもあります。

 こんなにゾっとする「ただいま」があるだろうか
 衣理亜と話したことで、慈英に愛されていると実感する一方で、そんなにも自分が大切にされる価値があるのかという不安も強くあった。慈英と釣り合うパートナーであること、そして衣理亜のような被害者たちに報いるため、臣は自分を囮にして三島を排除しようと決心する。慈英のアトリエをみせるといって家に引き込み、三島に仕掛ける臣だったが、逆に拘束され押し倒されてしまう。そのとき開いた扉から出てきたのは慈英だった!よっしゃ!ダーリン帰ってきただっちゃ!悪者はボッコボコにして受けちゃんを助けるんだな!よーしやったれやったれ!なんて思ったら大間違いだぜ。まさかの「臣さんただいま」。おい、こいつなに考えてんだよってそこはまさしく三島と同じ気持ちになった筆者。大声で罵倒することも、咎めることもせず、淡々と臣の拘束を解いて風呂に入れようとする慈英の行動は、まるでそこに三島が存在しないかのような言動で、ゾッとさせられます。
 慈英に近づきたくて、慈英になりたくて慈英の”物”を盗んできた三島だったが、文字とおり慈英にとっては全て”物”でしかなかった。彼女も、取り巻いていた人たちも、盗作されたデッサンでさえ執着がない。けれどそのあとに続く台詞で臣のことを「それ以外だったらなんだってくれてやる」と言うのです。大学時代は絵を書くこと以外の全てに対してなんの執着も感動もなかった慈英。その慈英が商業向けの面倒な仕事を受けるのも何もかも、全て臣と一緒にいるためだと言う。ライトノベル原作ですからライトに萌えると言いたいところですが、全然ライトに言えるような質量ではない慈英の愛情。
 慈英の欠落した部分を演じる三木さんですが、これがまた凄まじい演技力です。怒る演技で声を荒げたり、怒鳴ったりするのはわかりやすいですが、感情を出さず淡々とした台詞のなかに怒りの感情をのせる、という難しい芝居を見事に表現されています。三島を演じた関さんもイカれっぷりが光る演技をされていました。

 あなたがいなければダメなのは俺の方
 自分が慈英に愛されていい存在なのか不安がる臣に対して、これでもかというくらい言葉を尽くして伝える慈英。先にも書いたとおり、慈英は精神的な意味で臣を自分の世界に閉じ込めたいと思っている。けれどその恐怖すら感じるほどの執着心の裏には同じくらいの不安がある。それがこの「正直に言えば、堺さんがプライドを持てと言ったことも、どうしてだという気もしてる。臣さんが自立してしっかりしてしまったら、俺なんか捨てていくかもしれない」という台詞に表れています。弱ってる攻めって、萌えますよね。
 そして止めの一発がこれ。
「あなたがいなければだめなのは、俺のほうだとわかりませんか?」
 三木さんの演技、もう素晴らしいとしか言いようがないです。完敗です。臣に過剰な執着をみせる一方で、絵を書くことしか取り柄のない繊細で脆い部分が表現されていて、ぐっと感情をもっていかれます。
 そうやって弱い部分を見せたかと思うと、臣が自分のためとはいえ他人に身体を触らせたことに憤り、「今度、誰かに触らせたら、二度と人の目にさらせない身体にするよ?」と明らかに常軌を逸した台詞を吐く慈英を、三木さんが狂気と色気の混じった声でぶっ込んできてます。

 2枚組で濡れ場8分強は短すぎる?
 BLCDにとって大きな聞きどころとなる濡れ場、本作では約2時間半の長さに対して8分半程度しかありません。情報だけを並べると、短いような印象があります。いや確実に短い。筆者としてはもっと長く聞きたい。ですが、本作を聞き終わったあとで、もっと濡れてくれたらいいじゃない!なんてヒステリックグラマーな不満は出ませんでした。それはなぜかといえば、シナリオの完成度が高いからだといえます。本作では、三島の登場によりサスペンス要素が加わり、その変化のなかで臣の自信のなさからくる不安や、慈英の知らない顔が明らかになったり、また第三者がもたらす障壁によって強くなっていく二人の絆であったり、こういった要素が最後まで聞く人の興味が薄れることがないよう構成されています。ですから繁殖期で鼻息の荒い熊の形相で「早く濡れねぇかぁ!」とか思わないわけです。実に素晴らしい作品だ!

 末筆
 今回二枚組のレビューになりましたが、長いッ!盛り込みたい要素全てを書ききれないのがもどかしいです。
 本作は三島という男の登場によって慈英の過去が明らかになったり、臣が危険な目にあったりと、疾走感のあるストーリーでした。もうとにかく慈英が怖い。ライトに萌える〜とか言えねぇ、愛情表現がサイコパス要素満載で。でもそれだけではなくて、自分のそういう閉塞的な部分も理解しているし、社会との繋がりという部分では臣が慈英の世界を拡張する役割にもなっていて、どちらが欠けても成り立たない二人だなと思います。この二人がやっぱり特別だなと思うのは、受けちゃんかわいい萌え〜というテンションではない、本当に幸せになってほしいという感情が生まれるところですね。実在する実話のカップルに近い感覚で応援したくなるといいますか。萌えを超えて風になるってこういうことを言うんですね…。(怖)

 次回、臣の父親が明らかに!?崎谷はるひ原作!「あざやかな恋情」レビューです