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慈英がまさかの記憶喪失!?君の名は?状態!崎谷はるひ原作「はなやかな哀情」BLCDレビュー前編

 さぁさぁさぁやってきちゃいましたよシリーズ最高傑作の本作が!これは本当にどうしようかという。前編後編に分けても書ききれるかという熱量です。シリーズというか、筆者においてはこれまで聞いてきたBLCDのなかで最高傑作確定。おめでとうございますありがとうございます!(めちゃ×2イケてるッ!の岡村隆史風に)
 で、シリーズ6作目にしてまさかの記憶喪失もの!あたしゃ記憶喪失ものだと知ったとき、

 おいおい正気か?こんなやり尽くされてるネタで一体どうするつもりだ?

 なんて思うわけですよ。恋愛系の作品では鉄板ネタですからね。ペ・ヨンジュン。ね。言いたかっただけですけれども、まぁ期待値ゼロどころかマイナスくらいから入ったわけですな。そしたらあんた・・・大変なことよ。翌日に響くくらい泣き腫らすというね。もう嗚咽。嗚咽しながら聞いてましたよ。これを書くために聞くわけですけど、もうもはや何の目的で聞いてるか分からなくなるくらい、おうおう言いながら泣く。そして私は長野の風になった・・・。
 と、いうわけでいってみましょう。

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 作品名:はなやかな哀情
 原 作:崎谷はるひ著
 レーベル:Atis collection
 メインキャスト:秀島慈英(CV.三木眞一郎)× 小山臣(CV.神谷浩史)
 設 定:画家 × 刑事
 ジャンル:サスペンス/ロマンス
 エロ度:★★☆☆☆
 ラブシーン回数:3回
 ラブシーン分数:5分36秒(1回戦,1:47 / 2回戦,1:53 / 3回戦,1:56)
 あらすじ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 刑事である小山臣の転勤に合わせて画家の秀島慈英が長野の市外へ移り住み、二人は
付き合い始めて7年という月日が過ぎていた。あるとき慈英はかつて自分をを業界から
追放しようとした鹿島から呼び出され、彼の事務所へ行くことに。そこで倒れた鹿島を
発見するが、何者かに殴られて意識を失う。知らせを受けて病院へ行く臣を待ち受けて
いたのは臣のことを忘れた、臣に出会う前の冷徹な慈英だった。
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 ◾️君の名は?(出典:劇場版おっさんずラブ ~LOVE or DEAD~)
 慈英の因縁の相手である鹿島の事務所に向かうところからはじまる本編。いざ行ってみると、インターホンを押しても出ないうえにドアが開いている。(サスペンスフラグびんびん物語)予想とおりの展開で、倒れている鹿島を発見し、背後から殴られる慈英。そしてこのあと起こる不幸など微塵も知らずに愛し合う二人のシーン回想。

「だって、5日も臣さんにあえません」

 だから5日間消えないようにキスマークを付けされるんですけど。全てが無に還るという残酷が待っているわけですよ。
 公務員でしかも駐在所勤務の臣が休みを取れたのは、連絡をもらってから3日後。ここはリアルですよね。公僕であるがゆえの不自由さがある。しかも同性の恋人というハードル付き。臣にとってはすごく辛い現実だと思います。で、それだけでも辛いのに、やっと慈英が無事なことを確認して手を握った臣に突き付けられる、しなやかシリーズ史上最強の地獄。

 「あなたは、どなたでしょうか?」

 嘘だろおい。忘れちゃってるよ!もう本当にここから聞いていられないような慈英による鬼畜のような台詞が続き、正直しんどい。慈英てめえ!と言いたくなってしまいます。

 ◾️我らが代弁者、霧島久遠
 先ほど「慈英てめえ!」と言いましたが、それを代弁してくれているのが、慈英の学生時代の友人である霧島久遠の存在。臣とはこのとき初対面ですが、私たち長野の風に渦巻く沸々とした思いを、ずばっと言ってくれている。

 「笑うな。あとになってそれがどれだけまずいことだったかわかったとき、間違いなく死にたくなる。つうか、いまの自分をぶっ殺したくなるぞ」

 久遠兄さんかっちょええ!へらへら笑って、忘れっぽいのは普段からあることで、仕事に支障ないなら記憶がなくても問題ない、などと言い切ってしまう慈英に、まるでジャックナイフのように切り込んだ台詞!悲しいかなおそらくこんな警告も、このときの慈英には響いていなかったでしょう。何を無くしたか分からず苛立つばかりで。だとしても、臣の知らないところでこうやって働きかけてくれる人がいるということが、聞いている側にとっての救いになりました。

 ◾️照英×臣
 前作の「やすらかな夜のための寓話」で、ネオテニーを臣に譲る話がありました。それがここで響いてきます。担当医からの話を照英から聞いた臣が言った「よかった」という言葉に突っかかり、「だから籍入れろと言っただろ」と強く迫るシーン。身内とは縁切り状態で、大事があったときに責任をとるのは親族の照英しかいないという台詞を聞いて、筆者は大きな勘違いをしていたのだと気付きました。ネオテニーを慈英に譲ったのは、あくまで照英自身の画家としての区切りをつけるためだと思い込んでいたのです。天涯孤独で孤高な慈英を、照英は心配していた。けれど臣という存在ができて、驚くほど変わっていく慈英をみて、一緒にいる二人をみて、照英はもう大丈夫だと臣にネオテニーを譲ったのだと、この台詞を聞いて改めました。
 ところがそれが全て無に還ってしまったもんだから(しかも本人は被害者)、「籍入れときゃよかった」などと(それだって覚えてなかったらしゃあねえだろ)今さら臣に言っても仕方のない結果論を臣にぶつけてしまうんですね。もうこのシーンはダアーっと涙が止まりませんでした。照英も辛いんですよ。やっと手を離せるような人間になったと思った矢先の事件。記憶を失った慈英だって犯罪被害者でまた辛い。何より自分だけが忘れ去られてしまった臣の地獄みが・・・。
 なんも言えねぇ。(出典:北島康介)
 誰も責めることができない辛さったらねえわけよ。

 「俺のこと、忘れてもかまわないやつといっしょくたにした。それが、俺にとってどういうことか、あんたにわかるか」

 しかも医者から「本人が覚えていないことは話してはいけない」という苦境でしかない禁則付き。それってもう明日記憶が戻るかもしれないけど、死ぬまで戻らないかもしれない状態でずっといろってことじゃん。医者!(いや医者は悪くないけれど)

 「よかったって思うしか、ねぇじゃん、俺」

 本当にそうなんですよ。もうこうなったら生きててよかったと言うしかない。それを受け入れなきゃいけない臣がなあ。このあともずっと、辛いのは慈英だからって言い続けるんですよ。それがどれだけ辛いことだろうかと!愛だよ愛。

 ◾️弓削くん(CV.鈴木達央)のジャストフィット感
 この人はツンキャラやらせたら一品すなあ!もともと慈英のことをよく思っていない弓削くん。そして慈英から「どちら様?」と言われることも、何度となく経験している弓削からすれば、何も変わっていない慈英。弓削くんは臣と出会ってどう慈英が変わったか知らない、孤高の慈英しか知らないわけですね。しかも慈英の見舞いに来たのはパートナーの朱斗くんに言われたからなので、嫌々来ている感がゴイゴイスーです。

 「まともに人間なんか見ちゃねぇのは、ずっとだろ」

 この言葉が示すのは、まさに今の慈英そのもの。いやしかし、会う人間にとことん悪意をむき出しにされる慈英も可哀想になってきますね。身から出た錆なのでしょうが。

 ◾️アシストポイント5億点を差し上げます
 正直、このアシストがなければ慈英は東京に戻っていたかもしれないというハイアシストをみせた久遠さん。弓削が帰ったあと、逃げるようにカップを洗いに行く臣を追いかけていった久遠。絶対に言いたくもないだろうに、東京に戻った方がいいのではないかと弱音を漏らす。そんな痛々しい臣を「もっと誰かに甘えていい」と抱き寄せる。するとそれを目撃した慈英は、久遠に殺意ビームを飛ばします。そして東京ではなく長野に帰ると宣言。やっぱり染み込んだ臣への愛は、記憶を失っても人が呼吸の仕方を忘れないように、慈英にとっては当然で必然だったんだと思わせるシーンです。

 ◾️なにがミロのビーナスじゃ!
 長野に戻っても記憶が回復しないうえに意地くそ悪い慈英と、ひたすらそれに耐える臣。そんななか幡中奈美子という住人が義理の弟から暴力を受けていると、駐在所へ相談にやってきます。解決策の一つとして義理の弟を刑事告訴する方法があると提案するも、大げさなことはしたくないと泣き出し、話が平行線になってしまう。そこへ慈英が入ってきて、解決策を提案したところまではよかったんですよ。お、これを機にうまく運ぶんでないかい?なんてかすかな希望は、見事打ち砕かれだせ・・・。慈英の野郎、ミロのビーナスは不完全が完全で自分も記憶がなくても問題ない、臣のことだけ思い出せないのは臣がストレスの原因だった可能性があるとかほざきやがりました。美術の話を織り交ぜた話し方もこのときばかりは、洒落臭い言い方がまた鼻につくと思いましたね。それでまた自分の言ってることが間違っているなら教えてほしいとか、舐めたことぬかしやがるがら手に負えねえことなんのって。これにはさすがの臣お兄さんも激怒。今日は許せそうにないと出て行かせたあとの臣の台詞がまた臣らしいというか、痛い。

 「いっぱいありすぎか・・・。なあ慈英、俺どうすればいいかな。あとどれくらい頑張ればいいかな」

 ストレスの要因だなんて言われて、どこが悪かったのか悲観的に考え込む臣の台詞。慈英は紛れもなく目の前にいるのに、過去の慈英によすがを求めなければならないほど弱っている臣。こんなこと言わせていいのか慈英コノヤロウ!というね。臣も限界が近づいているようで、それを聞いているのも辛い。

 ◾️照英の激昂
 このトラックもねえ、本当にじょばじょば落涙。慈英が巻き込まれた事件の状況を伝えにきた照英でしたが、いつまでも”変わらない慈英”にしびれを切らして訪れたようにも思えました。事件の説明をぞんざいな態度で聞く慈英に、ネオテニーを見せて記憶を引き出そうとするしますが、思い出せない慈英に強い言葉で迫るのです。

 「てめぇの根底からひっくり返した相手、なんで忘れんだ!この絵も、俺は臣だから譲ったんだ。人生曲げるほど惚れた相手になにやってんだお前は!」

 原作の方ではこの前に、臣は電話で記憶を失ったのは自分がストレスだった可能性があると言われたことを照英に伝えているという描写があります。被害者でもある慈英に激昂したのは、これまで耐えてきた臣のことを思いやり、そしてなにより慈英が大切だからこそ、大切だった臣のこと、自分のことを思い出してほしいと願った照英の気持ちが爆発したのだと思いました。ただそれを粉々に打ち砕く慈英がよ・・・。

 「俺が、男とつきあってた? 冗談でしょう? ありえない」

 また三木さんの鼻で笑うような演技が追い打ちをかける。俺は男に欲情したことはない、とか言いやがる。(臣・・・臣が、あががががが。)もう本当に最悪状況ですよね。ストレス呼ばわりしたうえに、同性相手に欲情しないと言い切られたんですよ。

 もう終わりですよ。(X-GUNネタより)

 照英の思いとか、臣の気持ちとか、慈英の辛さとか全部グサグサきて、このトラックおいおい泣くしかできない長野の風でした・・・。

 ◾️末筆
 皆さま、今回この作品、思い入れが強過ぎて、そして内容が濃すぎるので前編後編に分けてお送りしたいと思います。
 そしていかがでしたでしょうか。やりつくされた鉄板ネタの記憶喪失でここまで泣かせる。ゴイゴイスーだよ崎谷先生!何故ここまで揺さぶられるかって、やはりこれまでの二人の歴史があるからですよね。私たち長野の風は二人のヒューヒューな日々をこれでもかというくらい見てきた。そうやって大切に一つ一つ積み重ねてきた日々が、一瞬で消え去ってしまった二人を目の当たりにさせられる辛さですよね。シリーズものならではの最大効果だなと思います。
 そして今回は周囲の脇キャラクターも光っていました。しなやか語録に登録したい台詞が多く出てきましたね。筆者の場合は、照英×臣ネタにことさら弱い!久遠や弓削と違って、照英は身内です。他の人たちより深く慈英に関わりがあるし、これまでの慈英と変わっていく慈英を見てきたからこそ、ある意味では臣とは同じ側にいる人間なんですよね。でも照英が言えば言うほど臣が傷つくという悲しい連鎖があって、誰も悪くないからこそ行き場のない感情に涙涙の連続でした。
 後半も泣きながら書くので、皆様どうかお付き合いを。

 次回、慈英がまさかの記憶喪失!?君の名は?状態!崎谷はるひ原作「はなやかな哀情」レビュー後編