しなやかな熱情から堺和宏役を演じてこられた中村秀利さんがお亡くなりになられました。偉大な声優の一人を失ったこと、大変遺憾に堪えません。心よりご冥福をお祈り申し上げます。
中村さんの演じる堺さんは、傷ついた人の隙間にすっと入っていく人情の厚い刑事であり、ならず者を引き取って面倒をみるほどの寛大さを持ち、そして酒が好きな気のいいおっちゃんでした。臣にとっては、少年の頃も青年の頃も壮年になってもなお同じように可愛がってくれ、我が身のように心配をしてくれる、紛れもない父親でした。刑事としての鋭さを演じるときの凄み、落ち込む臣を労わる優しさ、嬉しそうに酒の話をする陽気さ、その演技の全てが堺和宏という人間の血となり肉となり、この耳に届きました。堺さんが、中村さんがいなければ、成り立たない作品でした。この作品に出会い、堺さんが中村さんで、本当に幸運でした。ありがとうございました。
作品名:あでやかな愁情
原 作:崎谷はるひ著
レーベル:Atis collection
メインキャスト:秀島慈英(CV.三木眞一郎)× 小山臣(CV.神谷浩史)
設 定:画家 × 刑事
ジャンル:サスペンス/ロマンス
エロ度:★★☆☆☆
ラブシーン回数:3回
ラブシーン分数:10分55秒(1回戦,2:56 / 2回戦,4:59 / 3回戦,3:00)
あらすじ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
長野に拠点を置きながらアメリカでも活動することになった画家の慈英はその準備に
追われていた。新たにエージェントとなったアイン・ブラックマン。彼女は臣が慈英の
恋人だと知っていながら「慈英をちょうだい」とけしかけてくる。一方ある女性の
失踪事件と失踪した臣の母親とが宗教団体「光臨の導き」を中心に交差していく。
単独捜査に出た臣を待ち受けていたものとは・・・?
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◾️堺さん役に大川透さんが抜擢
ドラえもんが大山のぶ代でなくなったとき、サザエさんの波平さんが永井一郎でなくなったときの違和感が、やはりありました。その違和感とは別に、はたして大川透さんが堺和宏役として適役だったかというと、大川さんの実力は認めたうえで、地で持っている声質と喋り方が大変イケボなので、どう料理しても堺さんにならない。前任の中村さんのイメージが強いので、ファンとしてはどうしても”似た人”を求めてしまうものです。そこを抜かしても、壱都声優問題に同じくキャスティングミステイクだと感じました。こればっかりは慣れるしかないのでしょうけれど、中村さんがイメージぴったりのお方だっただけに後遺症が強そうです。大川さんの堺さん、なんだか突然若返ったというか、イケオジ感がゴイゴイスーでスーを差し上げます。
◾️鼻声の神谷さんは罪
冒頭から神谷さんが鼻声で不憫だなあ、なんて労わる気持ちがあったのもトラック1までだったとさ・・・。この鼻声が濡れ場で効果を絶大にしてくるとは思ってもみませんでした。市内の慈英の家に泊まりに来ていた臣たちは毎度濃度の濃いイッチャイッチャした会話を繰り広げます。神谷さん、甘えた台詞が鼻声だとさらに甘く聞こえるではありませんか!金平糖に砂糖ふりかけかけてどんぶりで食べるくらい甘い!これはこれでいい!などと不謹慎なことを・・・。不謹慎・・・そうですよ。もともと腐民などという生き物は不謹慎なもんでしょう!神谷さんには悪いがむちゃくちゃ美味しく頂きました鼻声臣タソ。鼻声も相まっていろいろエロすぎる臣のことを食べたくなったと漏らす慈英に、
「ん?んー」
がもうたまらん。辛抱たまらん!そんなかわいい声でもにょもにょ言っているから「たまんねえな」つって慈英に唇もっていかれる臣さんもちろんそのままin the sky!
◾️欲望丸出しのアイン・ブラックマン
恋愛感情とかどうでもいいからあの才能の塊とセックスしたいマンこと、アイン・ブラックマン。(韻を踏むな)欲望の金棒ぶんぶんしてましたねえ~。愛情抜きでセックスしたいと、その恋人に言っちゃうって相当なイカれ具合ですけれども。それも興味がなくなったらあっさり捨てられそうな欲望のようでまた怖いです。
それにしてもなぜ慈英はアインをエージェントにしようと思ったのでしょうね?苦手も苦手な部類に入るキャラクターに見えますし。実力は認めているのでしょうけれど、やはり御崎さんの推薦であることが大きいのか···。いやでも慈英はいくら御崎さんの推薦でも認めない人間をエージェントとして付けないだろうなあ。性格云々よりもとにかくドラスティックに仕事をしてくれそうなスーパースキルに惹かれたのでしょうか。そのへんは明らかにしてもらいたいですね。
◾️10分で駆けつけるスーパー攻め様
失踪した母親のことを知るにつれて、母親と過ごしたときのことを夢に見るようになった臣は、ついに体を売って生活していた時期の夢を見て不安定になり、慈英に電話をかけます。10分で来ましたよスーパー攻め様。ただ抱きしめてほしいと頼む臣に「え?それだけでいいの?」と逆に臣のムラムラを誘うテクニカル慈英。ばっちりすることするつもりで来てますよこの人。まあ過去に不安定になるとセックス依存症を発動していた臣ですから、そうなるのも仕方がないこともわかります。ですが抱きしめてほしいと言われた時点で、依存症の症状ではないことはわかっていたはず!ただ相手はキレイなスケベお兄さんこと臣さんですからね。勝てないわけですよ慈英も。
「ぎゅっとしててくれると嬉しい」
なんて生娘みたいなこと言ってさ!それだけでいいのかと聞かれてさらに、
「布団いっしょにはいって」
って・・・お前 わ ざ と だ ろ !と言いたくなるすかしっぷり!すかしながらも慈英にラブマッサージされて、
「ごめん、なんかムラムラしてきた」
ってムラムラさせられてんだよ計画犯だよ気づけよ。こういうところが魔性なのよ!奔放だけれど生娘みたいなことも言うとか!このシーンの原作の描写には、
彼の首筋に軽く噛みついて、腰をこすりつけながら言った。
ほらほらほらドエロお兄さんじゃん!これ残念ながら音声だけで表現するのは難しいのでお察し程度の演出しかないのですが、こんなことしながら言ってんですよ!生娘から反転、サキュバス。嗚呼、臣さん、あんたって人は···最高かよ。
◾️浩三さんが人間国宝レベルで優しい
前作の「たおやかな真情」で、壱都に危害を加えようとして逮捕された前田。身元引受人のいない前田に、浩三は自ら彼の身元引き受け人になると申し出るのです。てらそままさきさんの滲み出る優しさが台詞に出てましたね。
「お前が本気でやり直したいなら責任持って面倒みてやる」
こういう大人って今どれくらいいるんでしょうね、なんて途方もないことを考えてしまします。損得勘定でなく人情で動く人は、現代だとうっとおしがられることの方が多いのでしょうが、そういう側面ばかりではないということを感じさせてくれる台詞でした。
◾️なんじゃこりゃあああ!リターンズ
刺されましたね慈英。シリーズ1作目でも刺されているのでまさかのリターンズ。刺された原因は臣が無許可で行った単独捜査です。臣は自分の単独行動が原因で死ぬかもしれないような怪我を負わせてしまったわけです。彼の性格上別れると言いそうだなと思いましたが、逆にプロポーズするという裏切りがありました。前作でなにがあっても一緒に居続けるという約束を守ったかたちなりました。
いつかこうなるような予感はしてましたけど、慈英が刺されるのはちょっとくどかったかなあ〜という印象。ただ臣の「なにがあっても一緒にいる」という覚悟を言葉だけでなく行動でみせるとなると、自らの手で慈英を危険にさらしたその責任の重圧と戦って、プロポーズするという答えにたどり着くプロセスが必要になったのでしょう。
ではなぜくどい演出だと感じたかというと、慈英が臣を助けて怪我するのはこれで2回目、2作前の「はなやかな哀情」でも強盗事件で記憶障害を負ったばかりです。するとどうしても慈英が刺されるという衝撃が、読者からすると薄くなってしまうということが起きやすい。これまで臣を助けようとして事なきを得ていたなら、本作での怪我も読者にとって大きな衝撃を与えられたかもしれませんが、シリーズ8作中3作で怪我していたら、どうしたって慣れが生まれてきます。
臣に関わってから怪我ばかりしている慈英ですが、今回の臣の愚かな失敗があったからといって、決して愛想を尽かすことはありません。だてに執着攻めやってませんね。「はなやかな哀情」では慈英のために別れる決断をする臣でしたが、本作では慈英のために一緒にいる臣に変わりました。慈英を命の危機にさらした自責を乗り越えてプロポーズするシーンは、これからなにがあっても別れずに一緒にいると誓った二人の言葉が真実味を帯びた瞬間でした。
◾️結局のところ壱都は誰の子だったのか
壱都の母親とされる全主査のいち子には、妊娠に関する記録が一切ないという理由で、そもそも壱都はいち子の実子なのかという疑問が浮上しました。さらに光臨会結成初期に撮られた写真に写っていた臣の母親、明子が妊婦にあるいくつかの特徴に当てはまっていたことも混乱の一因でした。で、ここまで煽っておいて本編では結局誰の子だったのか、というところが非常に微妙な表現になっており、筆者のスキルでは読み取ることができませんでした。
原作を補足として読んでわかったのは、壱都はいち子とその実の兄である優次との間にできた子供でした。いち子と優次は実の兄妹関係ですから、近親交配による子供ということです。あまり口外できるような内容ではないので、CDでは原作よりもぼかした表現に抑えたのかもしれません。
◾️明子が光臨会にいた理由
臣の母親である明子について、今回の事件の被害者である永田蓉子の母親、高坂文美から話を聞くことになります。まず明子が妊娠しているかのように見えたのは、いち子と優次の秘密を知った明子が自分が妊娠して出産するように見せかけて、重田の目を背けるよう協力していたことが理由でした。そしてそもそも明子が光臨会にいた理由とは、明子自身の虐待の手から臣を守るためだったというのです。これは高坂文美の憶測として語られています。明子は産後うつに陥っており、育児ができるような状態ではなかった。しかしシングルマザーで身寄りもなく、経済的にも困窮していた明子は追い詰められた結果、臣をおいて女性の駆け込み寺でもある光臨会へすがるような思いでそのドアを叩いたのでしょう。臣は高坂文美の話を聞いて、
「それでも俺はそばにいてほしかったと思うよ」
と気持ちを綴っています。筆者も貧困の記事を読むことがありますが、精神的、経済的に追い詰められている人たちは正常な判断能力が欠如してしまうことがあります。臣の母親の場合も役所に相談するなり、周囲に助けを求めるなり、自分も臣も守る方法があったはずだと思います。しかしそれができなかったのは、やはり正常であれば思いつく手段をとれない状態にあったということなのでしょう。明子のしたことを100%悪として糾弾することはできないし、だからとってまだ親の支えが必要な年齢である臣を置いて出て行っていいということにはならない。臣がそれでもそばにいてほしかったという気持ちも苦しいほど伝わってくる台詞です。
いち子が出産したあと明子は姿を消した、とあるので、まだ生きている可能性があり、今後臣との再開を望めるかもしれません。
◾️末筆
いやあ、あっという間にじえおみシリーズ最新作まで駆け抜けてしまいましたね!本作では、臣の母親と慈英のアメリカ行きプラスアルファ鬼の金棒ぶんぶん丸アイン問題が同時に降りかかってきたうえに、慈英が刺されて臣プロポーズという怒濤の展開でした。当初優しくて穏やかだった慈英が実は心の狭い執着攻めだったり、不安定でふらふらしていた臣が実は一途でぶれないキレイなお兄さんだったりと、キャラクターの性格が物語の進行に合わせて変化していて、慈英も臣も変わったなあと沁々思いました。
シリーズものの良いところは、カップルへの愛着と親近感がわくことで、このじえおみシリーズはそれが非常に大きい。出会いから交際するまで、それから同棲、結婚と、彼らとともに山を越え谷を越え、流れる時間を共有する感覚は、より彼らと私たちを近づけてくれます。原作とCD、合わせて味わっていると、彼らが長野で生活しているところを想像して、私は長野の風になるのでした。
本作がシリーズ最新作になるわけですが、ここで終わるわけにはいかないでしょうメーカーさん!と。なぜなら慈英がアメリカに行ったところで話が終わっていますからね!二人離ればなれで終わらせる崎谷はるひではないと、筆者は信じています。今年の12月には、崎谷はるひデビュー20周年記念本「彩月」が発売されます。そこでなにか最新の情報が手に入るのではと期待しています。
じえおみ次回作も、その音声化も、やはり私たちの"風力"にかかっていることを忘れてはいけません!(長野の風に乗っかって)原作もCDも購入してバンバン感想を送って、公式へガンガン突風を吹かせて次回作を作ってもらいましょう!「さらさら」が音声化されたときのエネルギーをもつ私たち長野の風なら、必ずまた戻って来てくれるはずです。
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