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こんなオシャレなBLCD待ってました。市川けい原作!『ブルースカイコンプレックス』レビュー

 いよいよ在宅勤務のおかげでデブまっしぐらのわがままボディから鈍い危機感を叩き起こし、プチ断食を開始した筆者です。加工品を食べないことがどれだけ難しいことか痛感する毎日。皆様いかがお過ごしでしょうか。

 はい!ということで今回は当ブログでは初登場のレーベル「marble records」さんから発売の「ブルースカイコンプレックス」をレビューしていきたいと思います!わりと若いレーベルですが、運営元はあの東京漫画社様。今や誰かが5本の指のうちに必ず挙げるであろうヤマシタトモコさんや腰乃さんなど数々の才ある作家を輩出してきた出版社なのです。さすが自社で編集した原作漫画のドラマCDというべきか、いーい具合に仕上がっております。どこがいい具合なのか、とくとくと語っていきたいと思います。

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 作品名:ブルースカイコンプレックス / ブルースカイコンプレックスSecond
 [原 作]市川けい 著
 [レーベル]marble records
 [発売日]2016年 6月 29日 / 2017年 6月 28日
 [メインキャスト]楢崎元親(CV.佐藤拓也)× 寺島夏生(CV.江口拓也)
 [設 定]高校生 × 高校生
 [ジャンル]スクール
 [エロ度]☆☆☆★★
 [ラブシーン回数]2回
 [ラブシーン分数]9分47秒 / 4分32秒
 (1回戦,5:14 / 2回戦,4:33)/(1回戦,00:55 / 2回戦,3:37)

 あらすじ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 静かに日々を過ごせて少しの本が読めていればそれでいい。多くを望まない高校生、
楢崎元親はあるとき図書室の受付をするよう頼まれる。目つきが悪く喧嘩ばかりして
いる問題児、 寺島夏生のお目付役として。見た目の印象とは反対に隣で黙々と本を読む
寺島。次第に挨拶を交わすようになり、会話がはじまり、放課後図書室で過ごす二人の
時間を互いに意識するようになっていく。楢崎の影響で勉強をはじめた寺島は試験の
順位が50位以上上がったら褒めてほしいと言い出す。目標の2倍以上順位を上げた寺島
は”ご褒美”として楢崎にキスしてきて・・・・・・?
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 ■アンニュイなオシャレBLCD

 本作をはじめて聴いたとき「こういうの待ってました!」。そんな感想が真っ先に出てきました。次に出てきたのが「オシャレ」なBLCDだなという感想。BLCDを聴いてオシャレだと思うことは実はほとんどなくてですね。本作を聴いてはじめて出てきた感想でした。なぜ「こういうの待ってました」なのか、なぜ「オシャレ」なのか、筆者が受けた印象がどこからくるのか、その出所を探っていきたいと思います。

 #とにかく”無い”

 無い、という言葉だけ聞くとネガティブなイメージが付きものですが、本作においてはそれが作品の雰囲気を効果的に演出しているのです。

 (1)メインキャラクターのテンションが高くない
 (2)声優の演技に加工が少ない
 (3)登場人物が少ない
 (4)BGMが主張しない
 (5)派手な萌え台詞が少ない
 (6)派手な展開がない

 まず(1)と(2)について、かなり特徴的な演技ですよね。ローテンションのキャラクターはごまんといますが、ここまで受けも攻めもボソボソ喋り倒す演出もなかなか見ない作品です。このボソボソしゃべる、声を張り上げない、極力引き算して出てきた厳選絞りのような演技が、現実の日常会話のテンションっぽさを演出。さらにここに市川けいさんの描くリアル男子高校生が遣っていそうな話し言葉が加わると、フィクションのなかにあってリアルに近いような雰囲気が増すわけです。ぼやけた色をなんとなくオシャレだなと感じるように、ぼやっとしたキャラクターのしゃべりにオシャレを感じました。

 続いて(3)と(4)について、本作は登場人物が多くありません。会話の量でいえばほぼメインカップル二人の会話を中心に話が進んでいきます。特に原作の市川けいさんは重箱の隅を突くような会話を書かれるので、キャラクター同士の密度の高い会話を聴くことで、キャラクターへの理解がより深まります。作品の印象に少なからず影響するBGMについても必要最低限で会話を邪魔しない音量に抑えています。というか印象になさすぎてBGMあったっけ?なんてとぼけたことを言うくらいには存在感がありませんでした。静かにそっとしゃべる会話劇がまたオシャレ。

 最後に(5)と(6)について、萌えはBLを食する我々にとって主要成分の1つですよね。むしろ萌え摂取のためにBLを食するのだといっても過言ではない。本作にはわかりやすい萌え台詞がありません。「お前のものは俺のもの!壁ドォン!」みたいなやつはありません(どこにもねえよ)。特殊な設定の高校生でもないので、元彼女が出てくるとか、家族が結婚するとか、進路どうするとか、ごくごく普遍的な出来事ばかりで、次週この人たちどうなっちゃうの!?というハラハラドキドキな展開もありません。言葉は悪いですが、とりとめのないダラダラした会話の連続なんです。しかしこのとりとめのないダラダラした会話が重要で、多分にある会話からキャラクターに深入りしていくと、派手な台詞や展開はないのに些細な台詞や行動に萌えが生まれる構造になっている!(これ、市川芸と呼びますか。)静かに萌えるっていうんですかね。うん、オシャレだ。

 あらゆる演出の「ない」がこの作品をオシャレな印象を与えていたんですね。シンプルといえば簡単に聞こえますが、シンプルにするために様々な工夫がされていることがわかります。

 ■佐藤拓也さんと江口拓也さんにスーを差し上げます

 この二人のあの演技がなければここまでオシャレに仕上がらなかったといっていい。そのくらい本作での演技は素晴らしかった。ボソボソ喋る演技なのに、棒にならない絶妙なバランス。お二人ともさすがプロです。

 #ヤンキー受けのニューウェーブ

 江口拓也さんは今回受け役では出世作になるんではないでしょうか!?出演作品からみれば攻め役の割合が多いようですが、筆者は寺島役にBLアワードを個人的に差し上げたい。原作を読んでいて特段色気のあるキャラクターとして描かれていませんでしたが、江口さんが演じることで色気がプラスされていて、またそれが寺島というキャラクターからずれることなく新たな魅力を引き出していたという点で、ものすごくよかった。原作では全く色気のないシーンなのに寺島がしゃべるとなんっかいやらしく聴こえる、みたいなことが多々ありました。キャラクターに合わせて演じるのはもちろん正攻法なのでしょうが、こうして声優の演技でさらにキャラクターの幅が広がるのは本当にドラマCDのいいところ。

 これまでいろんなヤンキー受けを聴いてきましたけど、10馬身差で1位ですね!(競馬例えやめろ)濡れ場を含めた江口さんの演技の総合得点が筆者個人的に高得点をマークしました。寺島くんは本作で新しいヤンキー受けを提示したのではないでしょうか。BLでいうヤンキーのキャラクターといえば、その多くが偏差値低めに寄りがちですが、寺島くんはまず地頭がいい。本も読める。オラオラしてない。平和に暮らしたい文化系ヤンキー。そして極め付けが無自覚セックスアピール野郎!ちょっと気だるげに言う感じがなんともいえずエロいんですよねぇ。濡れ場でなくても台詞がいやらしく聴こえるというある意味で空耳アワー。

 またヤンキー受けといえばツンデレの最たるキャラクターの一種。寺島くんも文化系ながらそこは例外なく萌えさせてくれます。はじめてセックスが”良すぎて”楢崎の顔が見れなくなっちゃったりとか、ピアスの穴に嫉妬した楢崎に対して「お前ならピアスちぎってもいい」なんて言っちゃうとことかな!「新しい穴開ける」とかもうなにかの隠語ですか?ってくらい響きがエロい。そのあとの「もっと好きにすりゃいいのに」もMっ気を感じる!ヤンキー受けのMっ気なんてもう鉄板に萌えます。しかもこの台詞を本人以外の人に言ってるとこがまた粋。本人の前で言ってたらむちゃくちゃにされてるとこでしたよ(性的な意味で)。

 今回寺島くんで大きな功績を残した江口さんには、これからもっと様々な”受け”役に期待したいですね。誘い受けエロお兄さんんとか、天然あざとい子犬系お兄さんとか、ドライオーガズムお兄さんとか、ってあれ。趣味偏りすぎてるあかん(笑)

 #この人がいなかったらこんなにオシャレにならなかったサトタクこと佐藤拓也さん

 佐藤拓也さんについていえば、もう彼は受けも攻めもかかってこいやぁ!の天才肌ですからね。もっと評価されていい。世間が評価してくれないなら書いてやりますよ佐藤拓也特集!って話が逸れましたがそれくらい才のある声優です。個人的に近年稀にみる美声だと勝手に豪語している筆者です。佐藤さんが演じると様々なキャラクターが平面で見るよりも、50倍増して魅力的に聴こえてしまうという魔力の持ち主。本作でも攻めが佐藤さんでなかったらこんなにオシャレに仕上がっていただろうかと疑念をもつほど、やはりその存在感は大きかった。もともと持っている喋りの雰囲気にものすごく魅力がある。洋画の吹き替えを見ていて、この人いい声だなと必ず耳につくタイプの声優です。

 本作では原作のアンニュイな雰囲気を引き出すために徹底的に引き算の演技をしていました。声だけで演技するということはつまり「はっきり喋る」ことを意識せざるを得ない。ドラマCDだと特に台詞が聴こえづらいのは致命傷ですからね。しかし佐藤さんは低燃費で声は張らない、かつ現実の日常会話に寄せたテンションで話す演技をこのドラマCDで実現している。楢崎は寺島よりさらに低燃費で喋るキャラクターなので、余計にです。これはまた新しい境地ですよ。佐藤さんの卓越したスキルが魅せるオーガニックな演技が、間違いなくこの作品のアンニュイでオシャレな雰囲気を作り出していました。いや〜あっぱれ。

 本作のアンニュイでオシャレな雰囲気は、原作のゆったりしたイメージと世界観を演技によって拡張した演者の技量によって生まれたものだった!ありそうでなかったBLCD。演出1つでこんなにも雰囲気が作れるのかと、可能性を感じる作品でした。

 ■勝手に名場面集

 筆者が特にここがオシャレだった!ぐっときた!などの場面を抜粋していきます。このシーンがオシャレか?と疑問をもたれる方もいるかもしれませんが、そこに理由なんてないのさ・・・・・・(おいブログだぞ)。

 #オシャレな会話編
 (1)国語辞典を貸してほしいという寺島・・・・・・(Disk1-2)
 「お前国語辞典もってる?」
 「あるけど」
 「あとで貸して」
 「ほんとすっかり優等生だな」
 「おう、授業も寝ないで受けてるよ。生徒の鏡だろ」
 「ふはは、全くだ」
 「おかげでクソ眠いわ」
 「ははは」
 「じゃ、よろしく」
 「おう」

 (2)喧嘩している寺島を楢崎が連れ去って・・・・・・(Disk1-2)
 「よくあるのか。ああいうの」
 「ああいう?」
 「ケンカとか」
 「ああ、あんましないよ。月に1、2度くらいしか」
 「それあんまりしない部類にはいんの」
 「入るよ」
 「入らないだろ」
 「入るんだよ」
 「そうか」
 「はっ、なに普通のゴリ押しで論破されてんの(笑)」
 「ほんとだよ」

 (3)楢崎宅で家での呼び名がバレて・・・・・・(Disk1-5)
 「ちか?」
 「うるさいな」
 「ははは」

 #ここがよかった寺島くん
 (1)ケンカから助けたあと2回目のキスのあと・・・・・・(Disk1-3)
 「なんて・・・・・・?」

 (2)楢崎宅でオススメの本を教えてもらって・・・・・・(Disk1-5)
 「へぇ、おもしれえ?」

 (3)寺島宅でオーラルを誘う・・・・・・(Disk2-6)
 「な、それより、してやろうか」
 「ここで、フェラ♡」

 (4)卒業式トイレで・・・・・・(Disk1-5/Second)
 「バカお前なにすん・・・・・・んっ♡」

 この感覚をどう伝えればいいか言葉を探していますが、大きく笑うという感じじゃなくて、小さくクスクス笑う感じがオシャレに聴こえるんだと思うんですよね。またその会話から垣間見える二人の親密さと脱力感も相まってスタイリッシュな雰囲気をかもし出してます。

 寺島くん・・・・・けしからんエロがすぎるぞ!(←おかわり)楢崎からオススメの本を教えてもらうシーンなんかキスシーンすらないのに色気ムンムン!おじさんだったら押し倒しちゃうところよ!シンさんの気持ちがわかってきたぜ。

 ■末筆

 なんでもないようなことが幸せだったと思う by.虎舞竜

 そんな、ストーリー、でした、ね。って無駄に間をとって言ってみましたけども。ストーリーも設定もどこかで見たことがあるものなのに、なぜか独特の雰囲気で引き込んでくる。そういう引力のある作品でした。ストーリー運びには直接関係のない日常会話が多分に盛り込まれているので、キャラクターへの理解が深まって愛着がわいてくる。だから味の濃いスパイスがなくても何気無い感情の揺れに萌えが生まれる。そしてなによりこうした原作のいいところが、ドラマCDにしたことで新たな付加価値をもって生まれ変わるという非常に相互関係の素晴らしい作品でした。特に声優の役割は大きかった。本当に江口さんと佐藤さんでよかった、この二人しかあり得ないと思わせてくれる演技をみせてくれました。

 多くのBLCDを聴いてきましたが、本作はとても新鮮な演出でした。そして聴いたとき、こういうの聴きたかったやつだ〜と思ったので、この手のオーガニック系の作品、今後さらに増えていってほしいと思います!


 次回、おわる原作!『ハングアウトクライシス』レビュー