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2008年発売以降12年以上売れ続けるレジェンド本を原作にもつBLCD!ヨネダコウ原作『どうしても触れたくない』レビュー

 明けましておめでたい人もそうでない人も2021年がはじまりました!今年もあなたのすきま時間にエンジョイを!をテーマにやっていきたいと思います(今はじめて言った)のでどうぞよろしくお願いします!ねえ!あっという間に下旬!下旬ですよもう?おっそろしい早さでね、早くて早くて震えております。

 さて!今年一発目、どうしようか迷ったんですが、個人的には原点回帰というところでして、BLにハマって初期の頃に読んだ漫画がこの『どうしても触れたくない』だったんですね。ヨネダコウさんを推し作家として追いかけるきっかけになった作品でした。本作は発売からなんと12年たった今も売れ続けており、BLCDの他に実写映画化もされているBLファンからの支持が非常に高い名作。原作は傑作、さてBLCDは・・・・・・?

 

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 作品名:どうしても触れたくない
 [原 作]ヨネダコウ 著
 [レーベル]ムービック
 [発売日]2009年 03月 27日
 [メインキャスト] 外川陽介(CV.石川英郎)× 嶋俊亜紀(CV.野島健児)
 [設 定]サラリーマン上司 × サラリーマン部下
 [エロ度]★☆☆☆☆
 [ラブシーン回数]5回
 [ラブシーン分数]2分16秒
 (1回戦,02:33 / 2回戦, 00:27/ 3回戦,00:38 / 4回戦,01:11 / 5回戦,00:25)

 あらすじ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 臭い。ヤなやつ。転職した初日、同じエレベーターに乗り込んできた二日酔いのその
男の印象は最悪だった。最悪なのに——。
ゲイの嶋俊亜紀は過去に受けた忘れがたい仕打ちから、人との関わりを遠ざけていた。
上司で課長の外川陽介は頑なな嶋を気にかけ、煙たがられてもお構いなしに声をかけて
誘い続ける。根負けした嶋は仕事終わり焼肉を食べに行くことに。別れ際、嶋を引き
寄せて唇を重ねる。「なんか変なことしたくなるよ、お前」——。
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 ■BLCD化が極めて難しいヨネダコウ作品

 ヨネダさんの作品はどれを読んでも思いますが、つくづく音声ドラマと相性が悪いなと。悪いというのは、単純に相性の話なんです。ヨネダさんの作品って間がすごく多いんですよ。台詞じゃなく描写で読ませるシーンがすごく多い。そしてこの”間”こそがヨネダ作品最大の特徴の一つでもあります。間とか描写でみせるのは本当漫画でしかできないことをやっていて、それがものすごく作品の雰囲気を作っている重要な要素なんですよね。しかしこの”間”というのは、音声ドラマにとっては非常に厄介者!なんの演出もせずに流したら事故ですからね普通に!台詞のない表情だけのシーンをどう演出するか、音声監督の腕が問われる難しい作品なのです。

 で、演出はうまくできていたかというと・・・・・・うーんやっぱり難しかった!まず”間”の演出をするのに必要になってくるのがBGMですよね。致命的にダサかったよね。教習所とかで使う教材ドラマの曲ですか?っていう古さ!もうこの時点でこの先の演出期待できないやつ!それそもそもヨネダ作品という難しいお題を抱えてるのに、BGMで失敗は取り戻せないだろバカヤロウ・・・・・・。

 で、さらに本作は”間”の他にも難題が。場面転換がものすごく多い。フゥ〜!もう難しいことだらけ☆漫画で読んでいるとそんなに違和感覚えないんですが、音声化すると「ハイ!ここ場面転換!」なダッセェ曲がいちいち流れてきて嫌でも意識させられてしまう。BGMの弊害がここにも。

 実写化とかもそうですけど音声ドラマ化も同じところはあって、原作のイメージをそのまま忠実に再現できるとは限らないし、忠実さにこだわることだけが正解でもないですよね。よく言う別物ってやつですね。しかし今回は相手が悪かったというか、原作がとてつもなくモンスター的に面白いしファンも多いので、その分期待感が大きかった!それでどうしてもBGMの古臭さであったり、場面転換のわざとらしさだったりが、もっとどうにかならなかったのかと悔やまれる内容になってしまいました。

 ■脳内のキャラクターがここに蘇る、高度再現技術を有する役者たち

 BGMのダサさなど吹っ飛ばす演技を聴かせてくれたのが、石川英郎さんと野島健児さん!よかったですよね〜。このBLCDがそこまで酷評に尽きなかったのは、メインお二人の好演がものすごく影響していると思いますね!特に外川役の石川さんは本当にまんま!と言わしめる演技でした。ちょっとダルそうに語尾を伸ばして喋る感じとか、そのなかに色気のスパイスがちゃんとあって、脳内で想像していた外川の声がそこにありました。

 野島さんはもういわずもがな、ドンピシャな役でしょう。お上品な野島さんのお声、掛けることの切なさは相乗効果が抜群であるという法則はBLCD界の鉄則ですよね。ツン強めな嶋くんでしたが、野島さんの柔らかな声で再現されるからこそ、ただの性悪キャラに聴こえないといいますか、ツンのなかにある愛しさと切なさと心強さと。(←)そんなツンツンツンツンツンツンな嶋ちゃんなのに、濡れ場になると途端に可愛い声出すから//////ノジマジックはここでも健在でした。

 脇には豪華すぎる森川帝王の仕事っぷりは良いに決まっており、メインの役者の働きが非常に良かったおかげで、演出面の不足は気になるけどまあいいかと思える程度に抑えることができた本作でした。

 <ココがイイのよあの台詞&あのシーン>
 外川のあの台詞編
 「悪かったって、怒んなよチュ」
 エレベーター内で嶋をからかったときの一言。外川のキャラクターの全部が詰まっている台詞ですよね。おちゃらけてるくせに締めるとこ締めてくるイイ男感。こうやって嶋は外川のペースにハマっていっちゃうのね/////

 嶋のあの台詞編
 「んぅ?んなに?」
 当フログ安定の濡れ場からの一言。焼肉デートのあとの初夜ね。ツンとのギャップ。とどめ刺しにきてるよコレ。外川の言うとおり、エロすぎるぞなんとかしろ問題。

 あのシーン編(1)
 外川の転勤から1ヶ月、ふと引き出しから○禁と書かれた煙草を発見して嶋が感極まるシーン
 さすが泣きの野島健児。ほんの数秒しかないシーンでしたが、こちらの感情を引きずり出させる野島さんの泣きの演技は必聴です。

 あのシーン編(2)
 京都での告白シーン
 ここは待ってましたのクライマックスシーンで、今までは外川のペースに巻き込まれるかたちで関係を繋いでいた嶋がはじめて能動的に自分の気持ちを伝えます。またその台詞が切ないんですよね〜。自己犠牲的な性格だから外川さんが飽きるまで、とか言うわけですよ。でもそれに対して外川は「俺のこと好きか」ってものすごくシンプルな質問を返す。ここがまたね!外川は嶋が抱えてるうだうだを全部すっ飛ばしてただ1点、その気持ちだけを問うているとこがさ!好きなんだから一緒にいりゃいいだろっていうシンプルで強い外川が垣間見えて唸った一言。外川が苛立ちをぶつける演技と嶋がおずおずと怖がりながらも自分の気持ちを伝える、二人の演技が両方とも最高潮に達したシーンでした。

 ■今聴くからこその発見

 ここ数年で特にSNSなんかを見ていると、少しずつではありますが蓋をされて見えぬものとされてきた人たちの声が聞こえはじめいるなと感じます。筆者自身も若かりし頃悶々としていた理由が今になってわかってきたり、様々なことを考えさせられます。BLCDでも若かりし頃には気づかなかったことを今だから気づくことがあって、本作でもいろんな角度からの発見がありました。

 発見その1.職場のしかも室内で喫煙
 これ当時あまり気にかけていなかった設定なのですが、今じゃ考えられませんよね。室内で煙草ですよ?昔は電車内でも喫煙していた、なんて聞くと大昔のように感じられるものですが、これ原作をよく見るとパソコンがブラウン管モニターなんですよ。で、社内で煙草を吸っているような時代って限られますよね。おそらく90年代後半とみているのですが、皆さんの所感はいかがでしたか。ヨネダさんが会社員時代はまさにこの時代で、これを描いたときはそんなひと昔前のことを振り返っていたのだろうかと想像が膨らみます。

 発見その2.これはずるい大人同士の不器用な恋愛だったんだ
 買って聴いた当時の印象としては、ノンケと過去に傷のあるひねくれゲイの切ない話、でした。ところが今読んでみるとこりゃあお互いずるい大人じゃあないのと。まず外川ね!外川のなにがってマジョリティビームがさ、ゴイゴイスーよ・・・・・・。

 「正直家族ってもんにはちょっと憧れんだよな」

 これ言う?嶋がゲイって知ってて言う?悪気ないんですよ。漫画のなかにもまずいこと言っちゃったような反省や焦りがみえる描写はなかったので、本人全く悪いと思ってないんですよねこの言葉に対して。それが!それこそがマジョリティなのよ外川!ゲイは家族作れないもんな悪かったとか謝るのもまたマジョリティなんだけど!このシーンで嶋がひねり出すように、

 「いいお父さんになりますよ」

 って言うのむちゃくちゃ切なくて!でも嶋も嶋でずるい。ここで傷つくのもずるいんですよ。嶋は外川へ好意があって、それを全く自覚していないわけではない。でも外川が誘ってくるからってとこに寄りかかってるじゃないですか。職場でも無愛想で昼食も職場で一人で食べてるわけですけど、見方によっては御センチメンタルって札を首からさげてるようなもんじゃん!大丈夫?って相手に言わせるように仕向けてる積極的な意識はなくてもそれと同義なわけよ!で、いざ相手の気持ちが本気で自分に向けられているとわかったら相手のせいにして逃げる。外川は外川で家族への憧れという隕石並みの投下しておいて、ヘテロのカジュアルさで告白してくる。自分はいいですよゲイじゃないですもん。嶋が駄目でも女と家族を作る選択肢がいつでも用意されてる。もうちょっとちゃんと覚悟とか乗り越えるものとか、嶋と一緒になることの意味を言葉にして尽くさないといけねえわけよ。

 外川はマジョリティ側のずるさ、嶋は当事者回避のずるさ、それぞれずるいところをもっているんだけど、この物語はそれだけじゃなくて根底に優しさがあるんですよね。

 「よかったなあと思ってさ、お前に出会えて」

 とかは嶋が抱えていたトラウマを覆したし、嶋も外川が好きだから家族を作るという彼の未来を守りたい気持ちがあるんだろうなとか、そういう一本大きく流れる陽の感情が底あって作品全体が刺々しくならないようになっているんですよね。

 発見その3.嶋は実は昔明るかった説
 昔って言っても学生の頃とか、若かりし嶋はもっと明るい性格だったのかもしれないなとか想像したんですよね。ちびまる子ちゃんの山田ほどはいかなくても。(いくか)ゲイであることがどういうことか現実を知っていくなかで、徐々に影をおとしていって、前職のことがとどめをさして無愛想な暗い性格になったのかなと。そういう明るかった自分とか失くしていったものを、外川との時間のなかで取り戻していけるといいですよね。

 発見その4.ストーリー自体は王道
 ノンケが訳ありゲイと体から入って本気になるって大筋は、山ほど使われてきました。のに!なぜこの作品はこれほど多くの人を惹きつけるのか。ヨネダ世界観。あ、尾崎世界観みたいに言っちゃった。筆者はヨネダさんが作り出す世界観が物語に特異性をもたらしていると思うんですよ。じゃあその特異な世界観ってなによって話で。まずキャラクターにリアリティをもたせているところ。ヨネダさんの描く登場人物は、フィクションだからこそのTHEキャラが出てこない。なんとなーくどこにでもいそうな、どこにでもいなさそうでも現実感をもたせるように描かれている。端的にいえは、こんなやう現実いるかい!みたいな浮いたキャラクターは描かない。会話も日常会話の延長に終始していて、受けが際立って萌え〜な台詞を言うこともなく、攻めが俺の女にしてやるとか萌えもすっ飛ぶ決め台詞を言ったりしないわけですよ。現実感のある落ち着いたキャラクターたちが、ヨネダさんのどことなくクラシックな作品を演出してるんですね。

 また冒頭でも少し触れましたが、描写でみせるのがうまい!多くを語らせないでこっちに想像の余地をもたせてくる!海外ドラマで使われるおしゃれ手法ですよね。ええ〜結局何を言ったのかそこ教えてくれないんだ!みたいなやつですよ。説明しないシャレオツ感。本作でいえば外川と焼肉食べた帰り際、キスのきっかけになった嶋の表情ね。これみせてくれないの!いやだわあんな顔やこんな顔してたんじゃ・・・・・・グヘヘヘエつって想像しちゃう!答えを読者に預ける演出がシャレオツだし、こっちも想像してまた萌えて興奮するわけですよ。他にも外川の煙草だったり写真立てだったり、描写をこれでもかと使って演出していて、ここのこの描写はどういう意味があるんだろうと、読んでる側も補完する楽しみがあって、ヨネダ世界観、かぶきおるな・・・・・・。

 あとは体の描き方ですよね。本作ではわりと嶋くん細身でしたけど、ヨネダさんの他の作品を見てもグラデーション的にはガチムチ寄りの体を描かれています。ここも一つヨネダ世界観ポイントで、受けだからといって女性寄りに描いたりしないこと。現実感のある男同士を徹底して描いていて、濡れ場を読むとわかるのですが、まさに筋肉量の多い硬い男の体同士がぶつかり合ってるリアリティがありますよね。ヨネダさんの描くキャラクターは”男”をそれ以上でも以下でもなく描いていて、男同士のラブが読みたい我々にとってフィクションのなかにあって極力脚色を抑えた男性像をもつたキャラクター同士の恋愛は、より魅力的なドラマに映るんだろうと思います。

 ■末筆

 ヨネダさんは作品を出すたびにヒットを叩き出すBL商業界の東野圭吾ですよね。ところが原作とは反比例してBLCDの特に演出面では恵まれていない印象をもっていました。この記事でも触れたBGM問題だとかヨネダさんの作品の魅力を最大限に引き出せているかってところですね。そういった意味ではせっかく素晴らしい原作なのでBLCDも同等のヒットとまでは言わなくても、もっと質の高い作品になれたのではと悔やまれます。本作は発売から10年以上経過しているので、演出面を全面改変したバージョン取り直してもいいのかなとも思います。
 毎回言ってることなんですが、演出に関係なく役者さんの演技は本当に素晴らしい!演出ボロボロでも役者の力でどうにかなってる作品は正直少なくない。今回もやはり役者さんの卓越した再現力で作品の評価を保つことができた側面は否定できないですね。毎度頭が下がります!
 今後ヨネダさんの作品が漫画と同じようにBLCDの方も名作になることを願うばかりです!